[多汗症] 小学三年生、転換期の春 〜先生のまなざしと、濡れた記録用紙〜

新しい先生との出会い

三年生に進級すると、担任の先生が女性から中年の男性に代わりました。

それまでの先生は、ほんの些細なことにもすぐに注意するタイプで、

小心者だった私にとっては、毎日が小さな戦いの連続でした。

先生に叱られるたびに、ビクッと体が反応し、

手や足の裏からはジワッと、いや、ドバッと、汗が吹き出す。

冬でも汗をかくと、濡れた手足が冷たくなって、

じっとしていても寒くて、つらかったのをよく覚えています。

でも、新しい先生はまるで反対。

細かいことにはこだわらない、ゆったりとした大らかな性格で、

私はすぐに「この先生とは、相性がいい」と感じました。

それまでビクビクしながら過ごしていた教室で、

少しずつ、息がしやすくなっていくのを感じました。

汗を隠しきれなかった日

三年生になってすぐ、身体測定がありました。

これまでの測定は、保健室に数人ずつ呼ばれて行う方式で、

私はいつも最後のほうに呼ばれていました。

そのおかげで、濡れた手足を誰かに見られることもなく、

ひっそりと終えることができていたのです。

ところが三年生からは違いました。

クラス全員で保健室へ移動し、みんなで順番を待つスタイルに。

しかも体操服は半袖・半ズボン。

この時点で、私の中に「これはヤバいぞ」という警報が鳴っていました。

保健室では、体操座りで順番を待ちます。

一人ずつ測定が終わると、みんなで一列に座ったまま、

コツ、コツ、と前にずれていく。

私は、自分が座っていた場所が汗で濡れてしまうのが怖くて、

体を横にずらしながら、

床をお尻で拭くように移動していました。

きっと変に見えたと思います。

でも、そのときの私にとっては、それが精一杯の防衛策でした。

どうしても言えなかった

待っている間も、汗は止まりませんでした。

手は体操服で何度も拭き、足は上の体操服の裾でごまかすように拭き取って。

真っ白だったはずの体操服の裾は、

測定が終わる頃には、うっすらと黒ずんでいました。

記録用紙も、自分で持っていました。

でも、手汗でふにゃふにゃになって、文字もにじんでいました。

私の順番が来て、先生にその紙を手渡すと…

先生は一瞬、「あれ?」という顔をして、紙を見つめました。

「なんで濡れてるの?」

きっと、そう思ったはずです。

でも先生は、何も言いませんでした。

にこっと笑って、そのまま受け取ってくれました。

私は、「汗をかいたからです」なんて、とても言えませんでした。

変なやつだと思われたくなかった。

気持ち悪がられたくなかった。

でも先生は、何も聞かず、私の気持ちをくんでくれた。

その瞬間、私は心の中で思っていました。

「この先生みたいになりたい」って。

小さなターニングポイント

多汗症の悩みは、すぐに消えるわけではありません。

このあとも、「習字」や「リコーダー」で悩む日々が続きます。

でも、三年生になって、私はほんの少しずつ変わっていったのです。

怒られない安心感。

見守られているという感覚。

汗を通して得た“気づき”が、私をやさしくしてくれたような気がします。

次回、「習字」と「リコーダー」編へ

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

次回は、小学三年生の「習字」と「リコーダー」の授業での体験をお届けします。

濡れた半紙と、

滑って持てなかったリコーダー。

今でもはっきり覚えている、手汗との新たな戦いです。

今日も——

「あせってないけど、汗かいてます」。

同じような悩みを持つ誰かに、少しでも届けば嬉しいです。

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